症例報告:骨髄異形成症候群(MDS)に対する補腎補気養血療法の検討

―83歳男性における血球数維持と輸血回避の経験―

さつま薬局 漢方相談部


1. はじめに

骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞の異常に伴う無効造血を特徴とする疾患であり、特に高齢者においてはQOLの維持と輸血依存からの脱却が治療上の大きな課題となる。本例では、再生不良性貧血との鑑別が困難な症例に対し、中医学的アプローチである「補腎」および「補気養血」を施行した。その結果、血球数の安定および輸血の回避に至った経過を報告する。


2. 症例概要

  • 患者: 83歳、男性

  • 既往歴: * 2025年8月:専門医にて骨髄検査を実施。再生不良性貧血と診断。

    • 同月より約6ヶ月間、シクロスポリンによる加療を行うも改善を認めず。

    • 2026年1月:骨髄異形成症候群(MDS)へ診断転換。輸血療法を開始。

  • 初診時所見: * 自覚症状:特記すべき事項なし。出血傾向(-)。

    • 随伴症状:食欲、排便ともに正常。

  • 主要血液検査データ推移(漢方介入前):

検査日 WBC (103/μL) RBC (106/μL) PLT (104/μL) Hb (g/dL)
2025/12/25 1.8 3.2 7.0 8.4
2026/01/09 2.4 3.1 14.0 8.0
2026/02/05 1.7 3.4 12.0 8.6

3. 中医学的分析と治療方針

3.1 弁証分析

  • 腎虚(じんきょ): 骨髄機能の低下を「精血の源」である腎の衰えと捉える。

  • 気血両虚(きけつりょうきょ): 長期の化学療法(シクロスポリン)による正気の消耗、および造血源の不足。

3.2 治療方針

  1. 補腎精(ほじんせい): 骨髄機能を直接的に活性化し、血球産生の基盤を整える。

  2. 補気養血(ほきようけつ): 脾胃(消化吸収機能)を賦活し、後天の精から血を生成する効率を高める。

3.3 処方内容

以下の生薬・製剤を組み合わせた当局独自処方を適用した。

  • 鹿茸製剤: 強力な補腎・益精作用。

  • 牡蠣肉抽出製品: 微量元素およびアミノ酸供給による造血支援。

  • 帰脾湯製剤: 心脾を補い、気血の生成と統血機能を強化。


4. 治療経過

漢方介入後、定期的な血液検査結果に基づき経過を観察した。

  • 介入1週間後: WBC 2.3 / RBC 3.1 / PLT 10 / Hb 7.8

    • 白血球数に微増傾向を確認。主治医により経過観察の継続が指示される。

  • 介入1ヶ月後: WBC 2.0 / RBC 3.47 / PLT 8 / Hb 8.6

    • 赤血球数が改善傾向を示す。

  • 介入2ヶ月後: WBC 2.1 / RBC 3.54 / PLT 8 / Hb 8.69

    • 判定: 全体的な血球計数の安定化を認め、主治医より「輸血不要」との判断を得る。現在、同処方にて継続管理中。


5. 考察

再生不良性貧血とMDSは、西洋医学的診断においては峻別されるが、中医学的視点ではいずれも「虚労」「血虚」の範疇であり、「腎は骨を主り、髄を生じ、血に変ず」という基本原則に基づき、アプローチは共通する。

本症例においては、早期の介入により骨髄機能が維持され輸血間隔の延長、あるいは輸血依存からの離脱の効果が得られたと考える。

高齢患者においては、侵襲性の高い治療が困難な場合が多い。本例のように、腎精を補う処方を早期に導入することは、骨髄機能の枯渇を遅らせる有効な補助療法となり得る。


6. 結語

本症例は、難治性の造血障害に対し、西洋医学的治療と漢方医学(補腎補気療法)を併用することで、良好なQOLと血液学的安定を得た一例である。さつま薬局では、今後もエビデンスに基づいた個別化医療(精密漢方)を追求し、専門的な知見から難治性疾患のサポートを行っていく所存である。

(薬剤師、国際中医師:田之上晃)

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骨髄異形成症候群(MDS)の全てが改善できるわけではないですが、残っている造血機能を元気にすることで、倦怠感や疲労感など自覚症状の改善、血小板値の低下の抑制・改善など、漢方薬で対処できる場合があります。

【漢方相談に関する注意点】

  • 漢方薬は、体質や症状によって効果が異なります。
  • 本記事は、あくまで一例であり、すべての患者さんに当てはまるものではありません。
  • 輸血をしている方はお知らせください。

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