多囊胞性卵巣症候群の女性、体外受精と漢方併用で妊娠 31歳
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における漢方治療の併用が体外受精・胚移植の転帰に寄与した一例
1. はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害や耐糖能異常、高アンドロゲン血症を呈する内分泌疾患であり、生殖年齢女性の不妊症の主要な原因である。西洋医学的には排卵誘発剤や高度生殖医療(ART)が選択されるが、卵質の低下や子宮内膜の受容能不全が課題となる症例も少なくない。
本症例は、PCOSおよび卵管狭窄を有する続発性不妊の患者に対し、さつま薬局にて中医学的辨証に基づいた漢方薬を投与し、ARTとの併用により生児獲得に至った症例を報告する。
2. 症例の概要
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患者: 30歳、女性(経産婦)
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不妊期間: 11カ月(第2子希望)
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主訴: 不妊
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既往歴: 特記事項なし
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西洋医学的診断: 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、右卵管狭窄、甲状腺機能低下症(治療経過中に判明)
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検査所見: AMH 5.75 ng/mL、TSH 8.0 μIU/mL(後期治療前)
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東洋医学的所見:
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舌診: 紫舌、無苔(陰虚および血瘀を示唆)
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脈診: 緩
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随伴症状: 夜間尿、下肢の冷え
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辨証: 腎虚・瘀血
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3. 治療経過
3.1 初期治療(1~4ヶ月):内膜受容能の改善期
前医での凍結胚盤胞移植(BT)が不成功であったため、子宮環境の改善を目的とした。
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漢方処方: 牡蠣肉エキス製剤 + 芎帰調血飲加減(煎じ薬)
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(去:茯苓、白朮、烏薬 / 加:白芍、丹参、女貞子、蒲公英、麦門冬、黄耆)
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西洋医学的治療: 凍結胚盤胞移植
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経過: 移植後、初の妊娠反応陽性(hCG陽性)を確認。しかし、胎嚢確認には至らず化学流産となった。
3.2 中期治療(5~6ヶ月):卵質の改善および採卵準備期
採卵からの再スタートにあたり、PCOS特有の卵質のバラつきを改善し、良質な胚盤胞を得ることに注力した。
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漢方処方: 牡蠣肉エキス製剤 + 芎帰調血飲第一加減(煎じ薬)
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(去:白朮、木香、延胡索、桃仁/ 加:丹参、黄耆、人参、女貞子)
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西洋医学的治療: 体外受精(ショート法)
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経過: 18個を採卵。5BB、4BBを含む良好胚盤胞を凍結。
3.3 後期治療(7~10ヶ月):着床環境の最適化と維持
移植に向け、腎精を補い子宮内膜の血流を促進する処方へシフトした。
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漢方処方: 牡蠣肉エキス製剤 + 上記処方の調整
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(桂皮 → 肉蓯蓉、女貞子 → 枸杞子 へ変更)
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西洋医学的治療: TSH高値(8.0)に対しレボチロキシン(チラーヂン)服用を開始。正常値(TSH < 2.5)確認後に凍結胚移植。
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経過: 胎嚢確認(GS)および心拍確認。妊娠経過は順調に推移し、男児を正常分娩に至る。
4. 考察
4.1 辨証論治の妥当性
本症例は、AMHが高値なPCOSの状態にありながら、下肢の冷えや夜間尿といった「腎陽虚」の徴候と、紫舌に代表される「瘀血」が混在していた。
初期から用いた芎帰調血飲は、産後の聖薬とされるが、不妊治療においては子宮の血流(微小循環)を改善し、内膜の受容能を高める目的で有効である。本症例ではさらに女貞子や麦門冬を加え、陰液を補うことで「無苔・紫舌」という陰虚・血瘀の病態に対応した。
4.2 漢方併用による不妊治療への寄与
本患者は漢方服用前の移植では陰性であったが、服用開始後の移植で化学流産、その後の再採卵・移植で生児獲得と、段階的にステップアップしている。
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内膜機能の向上: 最初の移植でhCG陽性となった点は、生薬による活血化瘀・補腎作用が子宮内膜の質的改善に寄与した可能性が高い。
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卵質の改善: PCOS症例では採卵数は多いものの変性卵や低グレード胚が多くなる傾向がある。補気薬(黄耆、人参)と補腎薬を組み合わせた中期治療により、5BB以上の良好胚を獲得できたことは特筆すべき点である。
4.3 統合医療の重要性
後期治療において判明した甲状腺機能低下症(TSH 8.0)に対し、西洋医学的アプローチ(レボチロキシン)を優先し、その間に漢方で着床環境(肉蓯蓉、枸杞子による補腎)を整えたことが、最終的な妊娠成立の鍵となった。
5. 結語
PCOS患者に対する漢方相談において、中医学的辨証に基づく「補腎活血」の治療は、高度生殖医療の補助療法として極めて有効である。特に、子宮内膜の厚さといった解剖学的指標だけでなく、着床に関わる機能的側面を改善する可能性が示唆された。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)









