はじめに

本症例は、2回の初期流産既往を有し第1子妊娠を希望した42歳女性に対し、漢方相談(さつま薬局)による生薬・処方投与および体外受精(IVF-ET)の併用治療を行い、妊娠・分娩に至った症例である。漢方薬投与により全身状態および生殖機能(腎・肝・血流等)が改善され、卵子の質および子宮内膜環境の向上が得られ、高度生殖医療(ART)の成功に寄与した可能性について考察し報告する。

症例

  • 患者:42歳 女性

  • 主訴:第1子妊娠希望、不妊・不育傾向の改善

  • 既往歴:逆流性食道炎、胃痛

治療歴

自然妊娠および体外受精・凍結胚盤胞移植(FET)により過去2回の妊娠成立を認めたが、いずれも初期流産(早期流産)に至った。

来局時所見および東洋医学的所見(漢方診断)

  • 自覚症状:冷え、倦怠感・疲労感、頭痛、肩こり、げっぷ、胃痛。

  • 客観的所見:舌診にて紫舌および舌下静脈怒張を認める。

  • 弁証

    1. 腎虚:加齢(42歳)、冷え、疲労感、反復流産歴による。

    2. 瘀血:頭痛、肩こり、紫舌、舌下静脈怒張による。

    3. 肝気犯胃(肝鬱・脾胃不和):げっぷ、胃痛、逆流性食道炎の既往による。

治療方針

治療目的

病院での着床前遺伝的質的診断・胚染色体異数性検査(PGT-A)および胚移植を見据え、漢方薬投与により母体の全身状態を整えることで、採卵時の卵子質の改善ならびに子宮内膜環境の最適化を目指した。

処方内容

  1. 湯液(煎じ薬)

    • 芎帰調血飲去白朮・茯苓 加 丹参・白芍・女貞子・人参

  2. 併用製品

    • 牡蠣肉エキス含有製品

    • シベリア霊芝(チャガ)含有製品

方解および効能

本処方構成により、疏肝解鬱(ストレス緩和・消化器症状の改善)、補腎益精(生殖機能および卵質向上)、活血化瘀(骨盤内微小循環改善)の複合的作用を期待した。

治療経過および臨床効果

  • 1〜3ヶ月目

    • 体調および随伴症状の変化に応じて湯液の加減を実施。

    • 採卵(5個)を行い体外受精を実施したが、胚盤胞への生育には至らず(培養中止)。

  • 4〜7ヶ月目

    • 湯液の調整とともに、シベリア霊芝製品から亀板膠含有製品へ変更。

    • 再度採卵を実施(採卵9個、6個受精)。5BBおよび4BBの胚盤胞を獲得。

    • 4BB胚に対しPGT-Aを施行した結果、正倍数性胚(A判定)を得た(※別周期で採卵した4BB胚のPGT-A判定は異数性胚[C判定])。

    • 内科的検査にてTSH 5.85 mIU/Lを認め、潜在性甲状腺機能低下症と診断。レボチロキシンナトリウムの服用を開始。

    • 子宮内フローラ検査ではラクトバチルス属菌占有率99%であり、良好な子宮内環境が維持されていた。

  • 8〜9ヶ月目

    • 亀板膠製品を再度シベリア霊芝製品へ変更し、移植周期に向けた調整を実施。

    • 甲状腺機能が改善(TSH 1.93 mIU/L)したことを確認後、正倍数性凍結胚盤胞(4BB, A判定)の移植を施行。

    • 超音波検査にて胎嚢確認(GS)および心拍確認を得て妊娠成立。経過良好につき無事男児を出産した。

考察

一般に、43歳(初診時42歳)におけるPGT-A施行時の正倍数性胚(正常胚)の獲得割合は10%前後と極めて低率であることが知られている。本症例では、高年齢かつ流産歴(不育症傾向)を有する難治性症例であったにもかかわらず、比較的少ない採卵回数で正倍数性胚を獲得し、継続妊娠・生児獲得に至った。

この要因として、弁証論治に基づき「補腎」「活血」「疏肝」を組み合わせた漢方治療が、ミトコンドリア機能低下や加齢に伴う卵子の質的低下に対し補腎・抗酸化作用を発揮したこと、ならびに骨盤内血流不全(瘀血)の改善を通じて子宮内膜の受容性を高めたことが推測される。本症例は、ARTと漢方薬の適切な併用治療が、高年齢不妊・難治性不育患者の生殖予後改善に有効な選択肢となり得ることを示唆している。

(薬剤師、国際中医師:田之上晃)

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