体外受精と漢方併用で妊娠 38歳
漢方相談による不妊治療の症例報告:体質改善と着床率向上を目指した多角的アプローチ
1. はじめに
本症例は、さつま薬局の漢方相談において、37歳、初産希望の女性に対する不妊治療の一例である。患者は、過去に人工授精による妊娠を経験するも流産歴があり、AMH値が低いなど、妊娠・出産への不安を抱えていた。漢方治療により、体質改善と着床率向上を目指し、多角的なアプローチを行った結果、妊娠に至った。本報告では、症例の詳細、治療経過、および考察を述べる。
2. 症例概要
- 年齢: 37歳
- 初産希望: 1人目(3年5ヶ月)
- 不妊治療歴: タイミング療法9ヶ月、人工授精7回(1回妊娠、12週で流産)
- 漢方診断: 腎虚、瘀血(頭頂部の痛みや弦脈などから肝経の疎通不良)
- AMH: 0.89 ng/ml
- 主訴: 足の冷え、白髪、頭痛、子宮筋腫など
- 治療目標: 体外受精に向けた体質改善、流産予防、着床率向上
3. 治療経過
3.1 初期治療(1~9ヶ月)
- 処方: 牡蠣肉・亀板膠製品と芎帰調血飲加白芍、丹参、黄耆、女貞子の煎じ薬
- 目的: 腎陰陽のバランス調整、肝経の活血、子宮・卵巣への血流改善
- 効果: 体調改善、2回の採卵実施
3.2 中期治療(10ヶ月目)
- 問題点: 内膜が厚くなりにくい
- 処方変更: 白朮、茯苓を抜き、酸棗仁、人参、何首烏を追加
- 目的: 養肝強化
- 効果: 凍結胚移植による妊娠
3.3 後期治療(妊娠中)
- 処方: 妊娠初期は安胎目的で継続、中期以降は当帰製品に切り替え
- 目的: 安胎、母子健康維持
4. 結果
本治療により、患者は妊娠し、元気な女児を出産した。
5. 考察
本症例では、漢方治療により、以下の効果が期待された。
- 腎虚の改善: 腎は生殖機能を司る重要な臓器であり、腎虚は不妊の原因の一つとなる。本症例では、牡蠣肉、亀板膠などの滋陰薬を用いることで、腎の陰を補い、生殖機能の改善を図った。
- 瘀血の改善: 瘀血は血の滞りを意味し、子宮・卵巣への血流を阻害し、不妊の原因となる。本症例では、芎帰調血飲湯などの活血薬を用いることで、瘀血を改善し、子宮・卵巣への血流を改善した。
- 内膜の厚さ: 内膜の厚さは着床に重要な要素である。養肝薬を追加することで、内膜の厚みを改善し、着床率向上を目指した。
- 安胎: 過去の流産歴を考慮し、安胎薬を用いることで、妊娠の継続をサポートした。
6. 結論
本症例は、漢方治療が不妊治療において有効であることを示唆する。特に、体質改善と着床率向上を目指した多角的なアプローチは、妊娠に至る上で重要であると考えられる。
7. 今後の課題
より多くの症例を集積し、漢方治療の効果を科学的に検証していく必要がある。また、個々の患者に合わせたオーダーメイドの治療法の開発も今後の課題である。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)