来局時の状況

82歳 男性 医学的診断:腎機能障害

主訴

2年以上続く腎障害を改善したい

現病歴

Cr:2.99mg/dl eGFR:16.5、尿蛋白2+。病院処方薬は高血圧、高尿酸血症、糖尿病、脂質異常症、高カリウム血症、便秘の治療薬。

漢方医学的所見

自覚症状

寝付き悪い、頻尿、夜間トイレ、声がれ、腰痛

他覚症状

紫舌裂中厚苔、滑脈尺部弱

改善結果

腎虚と食欲はあるが厚苔と尿蛋白からから脾虚と弁証し、煎じ薬で補気健中湯加減を15日服用。
2診目、3日目ぐらいから疲れにくくなり体調が良くなったとのこと。Cr:2.81mg/dl eGFR:17.7となり、改善傾向のため、同処方を1カ月分。
3診目、Cr:2.42mg/dl eGFR:20.8となり、更に腎機能が改善。

考察

  • 本症例は、食欲低下などの典型的な脾虚の自覚症状がなくても、尿蛋白の出現や厚舌苔といった他覚所見から脾虚の病態を捉え、補気健脾の治療が腎機能障害に有効である可能性を示唆している。
  • 尿蛋白と固摂機能: 尿蛋白は、腎の濾過機能の異常だけでなく、東洋医学的には腎の固摂機能の低下と関連付けられる。脾は後天の気を生み出し、これを全身に供給することで、腎の固摂機能を支える。脾の運化機能が低下すると、気血の生成が滞り、腎の固摂能力も低下し、結果として尿蛋白が増加すると考えられる。
  • 厚舌苔の意義: 舌苔は、胃気の盛衰や消化機能の状態を反映するとされる。特に厚く湿潤な舌苔は、脾の運化機能が低下し、水湿が停滞している状態、すなわち脾虚湿困の病態を示すことが多い。食欲低下がないにもかかわらず厚舌苔を呈するケースは、脾の運化機能が潜在的に低下しており、それが腎機能に影響を及ぼしている可能性を示唆する。
  • これらの所見は、自覚症状に現れにくい脾虚の存在を示唆し、たとえ食欲低下がなくても、腎機能障害を伴う患者においては、脾虚を視野に入れた診断と治療が重要であることを示唆する。補気健中湯は、脾の運化機能を高め、気血の生成を促進することで、腎の固摂機能を間接的に改善し、腎機能の安定化に寄与する可能性がある。

(薬剤師・国際中医師:田之上晃)