多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、流産歴あり、漢方併用の凍結胚移植で妊娠 27歳
多嚢胞性卵巣症候群と高プロラクチン血症を伴う不妊症に対する漢方治療の1症例
1. 患者背景
- 年齢:27歳
- 主訴:1人目不妊(9カ月)
- 既往歴:自然流産1回(26歳)
- 診断名:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症
- 不妊治療歴:タイミング療法6ヶ月、人工授精1回、体外受精1回(初期胚と胚盤胞を各1個ずつ凍結)
- 漢方治療開始時:凍結胚盤胞移植予定
2. 漢方治療前の状態
- 身体所見: 冷え、末端冷え、頭痛、生理痛(++)、暗紅舌、短舌、初潮が平均より遅い・生理周期3~6か月
- 舌診・脈診: 腎虚、瘀血の所見
- 西洋医学的診断: PCOS、高プロラクチン血症
3. 漢方治療の目的
- 凍結胚盤胞移植の成功率向上
- 次の採卵に向けての卵巣機能の改善
- 流産予防
4. 漢方処方と治療経過
- 初期処方: 牡蠣肉製品と煎じ薬の芎帰調血飲去白朮・茯苓・烏薬加丹参・白芍・女貞子・人参・蒲公英・黄耆
- 治療の考え方: 腎虚を補い、瘀血を改善。激しい破血薬は使用せず、体外受精・顕微授精の効果を高めるように体質改善を図る。
- 治療経過:
- 2か月目:体調良好。同処方継続し、凍結胚盤胞移植。
- 3か月目:妊娠反応陽性、胎嚢確認。流産予防のため安胎薬に変更し、心拍確認。
5. 考察
本症例は、PCOSと高プロラクチン血症を合併する不妊症患者に対して、漢方治療を行ったものである。芎帰調血飲を基本処方とし、患者個々の体質に合わせて生薬を加減することで、腎虚と瘀血を改善し、子宮内膜環境を整えることを目指した。その結果、凍結胚盤胞移植が成功し、妊娠に至った。
芎帰調血飲は、活血化瘀作用と補血作用を有し、婦人科疾患に広く用いられる処方である。本症例では、白朮や茯苓を去り、丹参や蒲公英を加えることで、瘀血を改善し、冷えを改善する効果を高めた。また、人参や黄耆を配合することで、気血を補い、身体全体の虚弱体質を改善することを目指した。
6. まとめ
本症例は、体外受精・顕微授精と漢方治療を併用することで、不妊治療の成功率を高める可能性を示唆するものである。漢方治療は、西洋医学では治療が難しい体質や症状に対して、多角的なアプローチが可能であり、患者個々の体質に合わせた治療を行うことができる。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)
注意: 芎帰調血飲第一加減には、妊娠中に使用できない生薬が含まれているため、妊娠が判明した場合には、必ず医師または薬剤師に相談すること。