不育症・習慣性流産(初期流産4回)、漢方薬で妊娠・出産 41歳
来局時の状況)
41歳 医学的な不妊の原因:なし
不妊期間3年 一人目希望、初期流産4回(すべて9週未満)(2回は流産絨毛染色体検査にてトリソミー確認)
○来局時の不妊治療歴:タイミング療法、体外受精1回(初期流産1回)
漢方による原因分析)
○冷え、首筋のこり、白髪増えてきている、暖房時のぼせ、4回の初期流産、アトピー性皮膚炎の既往歴、紫舌無苔などから腎陰陽両虚
○便が2日に1回で硬め、不安感が強い、生理量少、舌下静脈長、血流抵抗大などから血虚による瘀血
方針)
補腎・活血をして流産しにくい体質をめざす。漢方で体づくりをしばらくしてから体外受精を再開予定。
改善結果)
芎帰調血飲去烏薬加丹参・白芍・桂枝・竜眼肉・何首烏の煎じ薬、牡蠣肉製品、亀板膠製品を服用開始。
2ヶ月目、便通が改善。冷え続いているので、同処方の茯苓・生姜・大棗・竜眼肉・桂枝から桃仁・紅花・乾姜・牛膝・桂皮に変更し継続。
3ヶ月目、生理が遅れていたため妊娠検査薬で陽性。治療をしていない周期での自然妊娠。
4ヶ月目~、流産予防の漢方を継続。出血やつわりなどなく経過良好
⇒無事出産されました。
考察)
不育症のリスク因子は、子宮形態異常・甲状腺異常・染色体異常・抗リン脂質抗体陽性・第Ⅻ因子欠乏・プロテインS欠乏・プロテインC欠乏などが35%で、65%はリスク因子不明である。(1)
子宮形態異常・甲状腺機能低下症・抗リン脂質抗体陽性であれば有効な治療法があり、第Ⅻ因子欠乏・プロテインS欠乏・抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体陽性であれば低用量アスピリンの投与を検討するとなっている。
不育症は検査・治療を進めることで80%以上は出産するという報告もあるが、今回のように検査で異常がない場合は、漢方薬が不育症治療に有用な可能性がある。
中医婦人科学によると、流産が3回以上つづくことを「滑胎」という。病因病機は卵子・精子が健康でない、妊娠してからは母親側の気血不足や陰虚体質があると胎を損傷し、流産するとある。治療法は、妊娠前の養生が大切であり、補腎・健脾・養血・固衝などを行い、体質を増強するために次の妊娠まで1年以上空けるとなっている。(2)
しかし、1年空けることでの卵子の酸化を考えると、漢方薬で体質を増強しながら、流産後に正常なホルモンの状態に戻るまでの2,3カ月したら妊娠の機会を得るほうが良いと考えている。
補腎・健脾・養血・固衝などができるように、煎じ薬で活血化瘀・補血・理気健脾の芎帰調血飲を選び体質によって生薬を加減し、補腎・固衝を高めるために牡蠣肉製品、亀板膠製品などの動物性生薬を加えて体質を調整する。
今回は流産回数から体の虚損が大きいと考え、最初穏やかな生薬で体調変化を見ながら生薬を変更していき、比較的短期間で妊娠に至った。
妊娠してからは母体の気血不足などで流産しやすくなるので補血をして安定期までサポートした。
流産の9割が初期流産なので、安定期までのサポートが特に重要である。
既往流産回数が6回になると生児獲得率が28.9%と低値になる。生児を獲得するためには流産を5回までに抑えることが大切である。
初期流産を4回繰り返す不育症・習慣性流産の方で、妊娠前から漢方薬服用し出産まで続けることによって流産を回避できる可能性がある。
今後も、反復流産で悩まれている方に中医学理論で漢方薬を運用することで役に立てていきたい。
参考文献
(1)データから考える不妊症・不育症治療:メジカルビュー社
(2)全訳中医婦人科学:たにぐち書店
(薬剤師、国際中医師:田之上晃)
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