来局時21歳 男性 医学的診断:慢性疲労症候群
主訴)疲労感、頭が働かない、睡眠が悪い、1日中の咳
現病歴)8年前にインフルエンザに感染後から体調を崩した。様々な病院にかかり、「起立性調節障害」としてミドドリンや補中益気湯などで治療したが変化なく、その後「慢性疲労症候群」と診断され、抗不安薬などでも改善せず、小児慢性疲労症候群で有名な病院に入院しキレート療法を受けたが変わりなし。漢方専門病院で煎じ薬なども服用したが改善しなかった。最近、ドラッグストアで柴胡加竜骨牡蛎湯を服用して少し体調が良かったので、本格的な漢方薬でより改善を希望し来局。

漢方医学的所見)
自覚症状)1日中怠い、手の汗がよくでる、寝付きが悪く睡眠中に目が覚める、軟便で1日1,2回、たまに下痢で腹痛、頭を使うと痛くなる、めまい、気分の変化でやすい、鼻炎、咳
他覚症状)手足の冷え、紅舌、厚白苔奥はやや黄、滑脈

改善結果)腎陰虚と脾虚の体質に痰が生成されている。柴胡加竜骨牡蛎湯で少し改善したことなので、基本処方とする。清熱安神・去痰作用を残し、厥陰の邪熱を清する生薬は瀉下作用がある大黄から黄連に変え、陰虚を悪化させないため人参を党人に変え、舌苔から寒痰がやや熱化しているため竹如を加え、導痰湯の方意にするため枳実を加えて煎じ薬を15日分。
2診)鼻閉少し改善、便状も普通が続いている。その他変化なし。気の昇降を改善するため牡蛎から桔梗と香附子に変更し15日分。
3から9診)下痢や腹痛がでなくなり、基本処方を滋陰至宝湯に変え生薬を微調整する。その後疲労感・ブレインフォグがなくなり廃薬。

考察)病因が痰の場合は時間がかかるといわれている。理由は、痰が肺脾腎の機能失調により生じた病理産物であるからだ。中医基礎理論で「脾は生痰の源」と言われているように、脾虚をまず改善することが大切である。脾虚が改善できたら、次は陰虚をベースに去痰をする処方で不調が改善できた。全てを一変に治療することは難しいので、段階に分けて処方を選ぶことが大切である。

参考文献)中医臨床のための方剤学:神戸中医学研究会、医歯薬出版株式会社
中医学の基礎:日中共同編集、東洋学術出版