漢方相談による多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と不育症の改善:一症例報告

はじめに

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、女性ホルモンのバランスが崩れ、不妊や月経異常を引き起こす疾患である。また、PCOS患者は流産のリスクも高いことが知られている。本症例は、さつま薬局の漢方相談において、PCOSと不育症を持つ患者に対して、漢方薬を用いた治療を行った結果、妊娠に至った一例である。本報告では、症例の詳細と考察を行う。

症例

患者背景

  • 年齢:37歳
  • 主訴:一人目不妊(1年2ヶ月)、6週で流産を2回
  • 不妊治療歴:なし
  • 漢方薬服用歴:なし

来局時の状態

  • 他覚所見:細い髪質、舌下静脈怒張、紅舌、尺脈弱、基礎体温低い
  • 自覚症状:毎日夕方にでる蕁麻疹、不眠、冷え感、首筋のこり、経血塊、

漢方診断

  • 腎虚:年齢、基礎体温、尺脈の所見から
  • 瘀血:経血塊、舌下静脈怒張、流産歴から
  • 肝鬱熱:蕁麻疹、不眠、紅舌から

治療経過

  1. 初期治療:1~4ヶ月目、肝鬱熱を改善し、活血化瘀、補腎を目的とした牡蠣肉製品と煎じ薬の芎帰調血飲去熟地黄加韓乾地黄・補骨脂・党参)を処方。蕁麻疹が改善。
  2. 専門医受診: 5ヶ月目、LH71.2と超音波検査から多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断され、プロラクチン値も高いことからカベルゴリン服用開始。体外受精を勧められる。
  3. 冷え改善: 6~7ヶ月目、冷えが強いことから、温腎陽と活血を目的とした漢方薬に桂皮・丹参を追加。病院治療はカベルゴリンのみ。
  4. 妊娠: 8ヶ月目の周期で高温期が続き、妊娠が判明。
  5. 経過: 12週までは流産予防を目的とした漢方薬を継続。その後、元気な女児を出産。

考察

本症例では、PCOSと不育症の既往歴を持つ患者に対して、漢方薬を用いた体質改善を行うことで、妊娠に至った。漢方薬は、単に症状を改善するだけでなく、体全体のバランスを整え、生殖機能を改善する効果が期待できる。本症例においては、肝鬱熱、瘀血、腎虚という複数の病態を同時に治療することで、子宮内環境を改善し、着床率の向上に繋がったと考えられる。

PCOS患者は、流産のリスクが高いことが知られている。本症例においても、過去に2回の流産を経験しており、不育症が懸念されていた。しかし、漢方薬を用いた治療により、無事に妊娠、出産に至った。これは、漢方薬が血流を改善し、卵巣や子宮内環境を良くすることで、流産の確率を下げる効果があることを示唆している。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)