43歳女性における卵管閉塞を伴う不妊症に対する漢方治療:症例報告

1. 患者背景

43歳の女性患者は、1人目の子供を希望し、1年6ヶ月不妊治療を受けていた。既往歴として、子宮筋腫と卵管閉塞を有し、体外受精、顕微授精、凍結胚移植を3回経験している。過去に一度妊娠に至ったものの、心拍確認できず流産している。

2. 来局時における症状と診断

来局時の主訴は、不妊治療の長期化と妊娠に至らないことである。東洋医学的な診断では、以下の特徴から腎虚と瘀血が認められた。

  • 腎虚の証: 寒がり、むくみ、夜間頻尿、乾燥肌、痩せ型、初潮遅発、年齢
  • 瘀血の証: 痛経、子宮筋腫、卵管閉塞

3. 治療方針と経過

3.1 初期治療(1~2ヶ月目)

  • 目的: 腎虚と瘀血を改善し、生殖機能の低下を改善する。
  • 処方: 煎じ薬の芎帰調血飲去地黄加白芍、丹参、黄耆、女貞子、党参、牡蠣肉製品、亀板膠製品
  • 経過: 凍結胚移植を行うも、妊娠に至らず。

3.2 中期治療(3~8ヶ月目)

  • 目的: 採卵に向けて、体質改善を図る。
  • 処方: 党参を人参に変更するなど、体質に合わせて処方を微調整。
  • 経過: 8個の卵子を採卵し、3個の胚盤胞を凍結するも、移植後陰性。

3.3 後期治療(9~12ヶ月目)

  • 目的: 移植に向けて、子宮内膜の環境を整える。
  • 処方: 便秘改善のため熟地黄を追加、5個採卵でき体外受精で胚盤胞を3個凍結(4AAを含む)。卵管水腫に対して破血作用のある三稜・我朮を追加、その後、補腎作用のある杜仲・続断に変更。
  • 経過: 凍結胚移植により妊娠、心拍確認に至る。妊娠時44歳。

4. 考察

本症例は、西洋医学的な治療と並行して、漢方治療を行うことで、最終的に妊娠に至った。漢方治療では、腎虚と瘀血という体質に合わせた処方を経時的に変更することで、生殖機能の改善を図った。特に、冷えの改善、子宮内膜環境の整備、そして精神的な安定に重点を置いた治療が奏功したと考えられる。

5. まとめ

本症例は、漢方治療が、西洋医学的な治療と併用することで、不妊治療における有効な選択肢となり得ることを示唆している。特に、高齢出産を希望する女性においては、漢方による体質改善が妊娠率向上に貢献する可能性がある。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)