漢方による不妊治療の症例報告:40歳女性における腎虚・血虚血瘀を伴う不妊症に対する治療経過と妊娠に至るまでの経過

はじめに

本症例は、さつま薬局における漢方相談の症例報告である。40歳の女性患者は、低AMH、男性の精子数の減少、低運動率を原因とする不妊症で、1年3ヶ月の不妊期間を経て当薬局を受診した。西洋医学的な治療と並行して、漢方薬を用いた体質改善を行い、最終的に妊娠に至った。本報告では、患者の臨床症状、漢方診断、治療経過、および得られた知見について詳細に述べる。

患者背景

  • 年齢:39歳(初診時)
  • 主訴:1年3ヶ月の一人目不妊
  • 既往歴:特になし
  • 生活習慣:不規則な食生活、睡眠不足
  • 医学的診断:低AMH(0.71ng/ml)、男性:精子数少・低運動率
  • 不妊治療歴:タイミング療法5か月、人工授精2回、体外受精1回(採卵するが変性卵)

漢方診断

  • 舌診:舌燥苔、舌紫
  • 脈診:尺脈弱
  • その他:手足冷え、1日中疲労感、腰痛、肌乾燥、生理量少、顔焦色、基礎体温低い

上記所見から、本患者は腎虚、血虚、血瘀の体質と診断した。腎虚は、低AMH、疲労感、腰痛などに、血虚は、肌乾燥、生理量少、顔焦色などに、血瘀は、舌紫などにそれぞれ関連すると考えられた。

治療方針

西洋医学的な治療(体外受精)と並行して、漢方薬を用いて腎虚、血虚、血瘀を改善し、生殖機能を回復させることを目的とした。具体的には、補血養陰補腎、活血の処方を用いて、血虚の改善を図りながら、瘀血を解消することで、卵子の質の向上と子宮内膜の増殖を促すことを目指した。

治療経過

  • 初期(1~3ヶ月):牡蠣肉製品、亀板膠製品、芎帰調血飲去熟地黄・烏薬・益母草加乾地黄・白芍・丹参・女貞子・補骨脂を服用。体づくりに専念するため、治療を休止。
  • 中期(4~6ヶ月):乾地黄を熟地黄に、白芍を赤芍薬に変え、益母草を足し、人工授精を試みるも妊娠せず。
  • 後期(7~12ヶ月):生薬を微調整しながら、採卵を2回実施。1回目は変性卵、2回目はグレード1の胚を2個凍結。
  • 安定期(13~20ヶ月):内膜が厚くなりにくいことから、生薬を調整しながら、内膜が厚くなった周期に移植を試みるも妊娠に至らず。
  • 転院と妊娠(21~24ヶ月):他の医療機関へ転院し、自然周期の採卵で成熟卵を2個取得。4CBの胚盤胞を凍結。煎じ薬は香砂六君子湯加当帰・熟地黄・丹参に変更。翌々周期に6.5mmの内膜で移植し、妊娠。心拍確認。

結果と考察

本症例では、漢方薬による体質改善と西洋医学的な治療を組み合わせることで、40歳という高齢にもかかわらず、妊娠に至った。治療開始当初は、卵子の質が低く、内膜も薄かったが、漢方薬を継続することで徐々に改善が見られ、最終的には妊娠に至った。

結論

本症例は、漢方薬が不妊治療において有効な治療法となりうることを示唆している。特に、腎虚、血虚、血瘀を伴う不妊症に対しては、漢方薬による体質改善が効果的であると考えられる。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)