漢方による不妊治療における体質改善と着床率向上に関する症例報告

はじめに

本報告は、さつま薬局における漢方相談の症例報告であり、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症、子宮外妊娠などの既往歴を有し、不妊治療を長年続けてきた患者様に対する漢方治療の効果について記述する。本症例は、漢方薬による体質改善が、反復流産のリスクを軽減し、生産率の向上に貢献した可能性を示唆するものである。

症例

患者背景

  • 年齢:38歳
  • 主訴:一人目不妊
  • 既往歴:PCOS、高プロラクチン血症、子宮外妊娠(両側卵管切除)、不育症検査異常なし(第Ⅻ因子凝固活性低値)
  • 治療歴:タイミング療法24か月、人工授精2回、体外受精1回(子宮外妊娠2回、初期流産2回)、当帰芍薬散服用
  • 不妊期間:3年10ヶ月

現病歴

初診時、患者様は「赤ちゃんが欲しいけど、妊娠すること」が怖いと訴えられた。過去の2回の初期流産と2回の異所性妊娠の経験から、心理的な不安が大きかった。

漢方診断

  • 腎虚:冷え、残尿感、風邪をひきやすい、PCOS、2回の初期流産、尺脈弱、年齢
  • 瘀血:舌暗紅、2回の子宮外妊娠、2回の初期流産
  • 肝鬱気滞:ストレス時の吐き気や喉の詰まり、妊娠時の極度の不安感

治療方針

凍結胚盤胞の移植を予定し、漢方薬を用いて体質改善を図る。具体的には、疏肝活血、補腎を行い、流産しにくい体質へと導くことを目標とした。

治療経過

  • 初期:牡蠣肉製品、亀板膠製品、芎帰調血飲加白芍・桂皮・炒麦芽の煎じ薬を服用。4ヶ月間の服用後、凍結胚移植を実施するも妊娠に至らず。
  • 中期:煎じ薬を黒逍遥散加人参・黄笒・丹参・牛膝に調整。4ヶ月間の服用後、移植を実施するも妊娠に至らず。
  • 後期:理気の木香や清熱平肝の釣藤鈎などを加え、再度採卵。PGT-Aを実施し、染色体異常のない胚を移植。
  • 結果:移植後、胎嚢確認にて妊娠。流産予防に牡蠣肉製品と当帰阿膠製剤を継続し、元気な男の子を出産。

考察

本症例において、漢方薬による体質改善が、流産率の低下に貢献した可能性が考えられる。特に、瘀血や肝鬱気滞の改善は、子宮内膜環境の改善に繋がり、流産率の低下に寄与したと考えられる。また、腎虚の改善は、生殖機能の低下を改善し、妊娠を維持する力をつけることにつながったと考えられる。凍結胚移植による妊娠率は下がっているが、これは子宮内膜機能が向上したことで胚の選別機能が向上したためと考えられる。

近年、反復流産の原因として、染色体異常だけでなく、子宮内膜環境や血流障害などが注目されている。本症例のように、漢方薬を用いて体質改善を行うことで、これらの要因を改善し、生産率の向上を図ることが期待できる。

結語

本症例は、漢方薬が、不妊治療における体外受精の補助療法として有効である可能性を示唆するものである。特に、反復流産を経験した患者様に対しては、漢方薬による体質改善が、心理的な不安を軽減し、妊娠に対する希望を与えることができる。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)