漢方相談による多囊胞性卵巣症候群(PCOS)患者様への治療効果:症例報告

はじめに

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)は、女性不妊症の主要な原因の一つであり、その治療には西洋医学と東洋医学の両面からのアプローチが検討される。本症例は、さつま薬局の漢方相談を受診されたPCOS患者様に対し、漢方薬を用いた治療を行った結果、体外受精に至り、妊娠に至った一例である。本報告では、漢方治療の経過と考察を論文形式で記述する。

症例

患者 33歳女性。初産婦。1年以上の不妊歴。医学的診断はPCOSおよび卵管の軽度な狭窄。

主訴 不妊、月経不順、夜間の頻尿、冷え感、肌の乾燥

現病歴 1年前に不妊治療を開始し、検査は行っているものの具体的な治療は行っていなかった。

既往歴 甲状腺機能低下症。TSH 3.1(チラーヂン服用中)

現症 ・舌:無苔、紫舌 ・脈:弦数 ・基礎体温:多相 ・その他:夜間の頻尿、冷え感、肌の乾燥、TSH 3.1(チラーヂン服用中)

漢方診断 腎虚、瘀血

西洋医学的診断 PCOS、卵管の軽度な狭窄、子宮腺筋症

治療経過

初期治療(1~8ヶ月)

  • 漢方薬:牡蠣肉製品 四物湯合六味丸に加え、丹参、陳皮、女貞子、桂枝、炙甘草の煎じ薬
  • 西洋医学的治療: タイミング療法、人工授精

上記治療により、体調は比較的良好に推移し、生薬は患者様の状態に合わせて微調整を行った。

中期治療(9ヶ月)

  • 漢方薬: 牡蠣肉製品と四物湯合六味丸加、丹参、生姜、桂皮、党参、炙甘草、紅花の煎じ薬
  • 西洋医学的治療: 体外受精(ショート法)

体外受精の結果、13個の卵子が採卵され、グレード1の初期胚1個とグレード良好な胚盤胞6個が凍結された。

後期治療(10~12ヶ月)

  • 漢方薬: 内膜の厚みを増すため、漢方薬の処方を調整
  • 西洋医学的治療: 多血小板血漿療法(PRP療法)

内膜の厚みがなかなか増えず、移植が延期された。12ヶ月目にPRP療法を行い、内膜が6mm弱となったところで移植を実施。その後、胎嚢が確認され、妊娠が成立した。

考察

本症例では、PCOSと卵管の軽度な狭窄を有する患者様に対し、漢方薬と西洋医学を併用した治療を行った。漢方薬は、腎虚と瘀血という体質に基づき処方され、血虚の改善を図るとともに、子宮内膜の機能改善を目的とした。西洋医学的治療としては、タイミング療法、人工授精、体外受精、PRP療法などが行われた。

PRP療法は、内膜の厚みを増すことで着床率を向上させることが期待される。しかし、本症例ではPRP療法後も内膜は6mm弱にとどまり、通常考えられる効果は得られなかった。しかしながら、漢方治療を継続することで、内膜の質が改善され、妊娠に至ったと考えられる。

漢方の考え方では、子宮内膜の厚さだけでなく、その機能が重要である。本症例の結果は、漢方治療が子宮内膜の機能改善に寄与し、妊娠率向上に繋がった可能性を示唆している。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)