漢方相談による不妊治療支援:抗セントロメア抗体陽性と多囊胞性卵巣症候群を伴う症例の報告

はじめに

本報告は、さつま薬局における漢方相談の症例報告である。37歳女性、第一子希望、抗セントロメア抗体陽性と多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の傾向を有する患者に対し、漢方治療を併用した不妊治療を行った。長期間の治療を経た後、低刺激法による体外受精で妊娠に至った経緯を報告する。

症例

患者背景

  • 年齢:37歳
  • 主訴:不妊(1人目を希望し10ヶ月)
  • 既往歴:膀胱炎
  • 現症状:生理中の足の冷え、夜間頻尿、生理痛、舌暗紅
  • 検査所見:抗セントロメア抗体陽性、PCOSの傾向
  • 治療歴:タイミング療法2ヶ月

漢方治療

  • 初期治療:腎虚と瘀血を鑑み、亀板膠製品と芎帰調血飲第一加減去木香加党参の煎じ薬を処方。
  • 中期治療:動物生薬を牡蠣肉製品に変更し、体外受精を併用。
  • 後期治療:抗セントロメア抗体陽性の影響を考慮し、滋陰清熱の生薬を組み合わせ、体外受精に併用。
  • 最終治療:低刺激法による体外受精で妊娠に至り、安胎薬を継続。

治療経過

  • 長期間の治療にもかかわらず、妊娠に至らず。
  • 体外受精では、採卵数が少なく、胚の質も安定しなかった。
  • 低刺激法に変更後、良好な胚盤胞を得て妊娠に至った。女児を出産。

考察

本症例は、抗セントロメア抗体陽性とPCOSという複雑な要因が重なる難治性の不妊症であった。漢方治療では、腎虚と瘀血の改善を図るとともに、体外受精との併用により治療を進めた。しかし、長期にわたり妊娠に至らなかった。

振り返ると、初期段階から滋陰清熱の生薬を組み合わせて陰陽バランスを整える治療も検討できたかもしれない。抗セントロメア抗体陽性の患者においては、免疫系のバランスを整えることが重要であると考えられるため、滋陰清熱の生薬は有用な選択肢となる可能性がある。

結論

本症例は、漢方治療と西洋医学の併用による不妊治療の難しさを示唆する。特に、抗セントロメア抗体陽性やPCOSを伴う症例では、より個別化された治療戦略が必要となる。

今後の展望

本症例のような複雑な不妊症に対しては、漢方薬の組成や用量を患者個々の体質に合わせてより精緻に調整していくことが重要である。また、西洋医学との連携を密に行い、両者の強みを活かした治療を行うことが求められる。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)