漢方薬による不妊治療における症例報告:体質改善と生殖医療の併用による妊娠に至った一例

はじめに

本報告は、さつま薬局における漢方相談の症例報告である。39歳女性、初産を希望し2年6ヶ月の不妊治療歴を持つ患者に対し、漢方薬を用いた体質改善と西洋医学的な生殖医療を併用した治療を行った結果、妊娠に至った一例を報告する。

症例

患者背景

  • 年齢:39歳
  • 主訴:不妊
  • 既往歴:特になし
  • 家族歴:特になし
  • 生活習慣:不規則な睡眠、冷え性、便秘気味、毎日夜中トイレに起きる
  • 月経:経血量少、周期は規則的

来局時現症

  • 医学的な不妊の原因:なし
  • 不妊治療歴:タイミング療法12ヶ月、人工授精3回(妊娠なし)
  • 漢方診断:腎虚、血虚からの瘀血
  • 舌診:舌無苔、舌暗紅でやや煽動
  • その他:肌の乾燥、便が硬く3日に1回、眼精疲労、貧血、卵管やや狭窄、むくみ、高温期が短い

治療経過

  1. 漢方治療開始(1~8ヶ月目)
    • 処方:牡蠣肉、亀板膠製品と芎帰調血飲第一加減去熟地黄・木香・枳実加乾地黄・何首烏の煎じ薬
    • 目的:腎虚と血虚からの瘀血の改善
    • 経過:生薬を調整しながら人工授精3回行うが妊娠せず。
  2. 体外受精へのステップアップ(9~20ヶ月目)
    • 経過:仕事の都合で治療を中断する期間があり、計2回採卵し移植するが妊娠せず。
  3. 体質改善と生殖医療の調整(21~29ヶ月目)
    • 処方:牡蠣肉、亀板膠製品、当帰阿膠製剤、冠心Ⅱ号方
    • 経過:転院し、採卵。胚盤胞を凍結。子宮腺筋症のため、ホルモン療法後、移植。
  4. 妊娠と出産(30~31ヶ月目)
    • 経過:凍結胚盤胞移植。妊娠陽性→胎嚢確認。出産に向け、牡蠣肉製品と安胎薬を継続。男児を出産。

考察

本症例では、漢方薬を用いた体質改善と西洋医学的な生殖医療を併用することで、妊娠に至った。漢方治療により、冷え、むくみ、肌の乾燥などの症状が改善し、体質が改善されたと考えられる。しかし、体外受精を繰り返しても妊娠に至らなかったことから、高度生殖医療が必要な体質であったと考えられる。

体外受精の総治療当たりの妊娠率は、年齢とともに低下することが知られている。本症例においても、複数の体外受精を経験し、最終的に妊娠に至ったことから、漢方薬の併用が妊娠率向上に貢献した可能性が考えられる。また、最初の病院と転院した病院とでは、卵巣刺激法が異なっていたことも妊娠に重要であった可能性が高い。

結論

本症例は、漢方薬による体質改善と西洋医学的な生殖医療を併用することで、妊娠に至った一例である。漢方薬は、体質改善を図ることで、生殖医療の効果を高める可能性がある。しかし、個々の患者さんの体質や病態は異なるため、漢方治療を行う際には、専門家への相談が重要である。

今後の課題

本症例は一例であり、より多くの症例を積み重ねることで、漢方薬による不妊治療の効果をより明確にする必要がある。また、漢方薬と西洋医学的な生殖医療の最適な組み合わせについても、さらなる研究が必要である。(薬剤師・国際中医師:田之上晃)