漢方相談による不妊治療支援:反復流産患者に対する補腎・活血を中心とした治療効果

はじめに

本報告では、さつま薬局における漢方相談の症例として、反復流産を経験し、体外受精を繰り返していた38歳女性の治療経過を報告する。西洋医学的な原因が特定されない不妊症に対して、漢方薬を用いた体質改善を行い、最終的に妊娠・出産に至った事例である。

症例

患者背景

  • 年齢:38歳
  • 主訴:1人目を希望し3年8ヶ月、流産歴2回(胞状奇胎1回)
  • 既往歴:甲状腺機能亢進症、子宮頚部中度異型性
  • 現病歴:体外受精・顕微授精1回(移植4回、陽性1回)
  • 自覚症状:末端の冷え、酷い生理痛、舌瘀班、食後の腹満、太息、感情の起伏

漢方診断

  • 腎虚:冷え、浮腫み、流産歴、既往歴から
  • 瘀血:末端の冷え、酷い生理痛、舌瘀班から
  • 肝の疏泄機能低下:食後の腹満、太息、感情起伏から

治療方針

体外受精に向けて、子宮・卵巣機能の改善を目的とし、補腎と疏肝活血を基本方針とした。

治療経過

  1. 初期治療
    • 牡蠣肉製品、亀板膠製品、芎帰調血飲去生姜・大棗・烏薬加白芍・丹参・枳実・厚朴・山査肉の煎じ薬を30日分処方。
    • 補腎と疏肝活血を目的とし、子宮・卵巣機能の改善を図った。
  2. 採卵期
    • 同上処方を継続し、体調に合わせて煎じ薬を調整。
    • 11個採卵し、良好胚盤胞を2個凍結。
  3. 移植後
    • 牡蠣肉製品、亀板膠製品、当帰阿膠製剤、冠心Ⅱ号方製剤に変更。
    • 体調は良好であったが、妊娠に至らず。
  4. 再移植
    • 病院を転院し、再度体外受精を実施。
    • 胎嚢確認後、妊娠が成立し、その後心拍確認。
    • 漢方治療を継続し、男児を出産。

考察

初期流産の80%は染色体異常が原因とされるが、反復流産になるとその割合は低下し、胎児の染色体異常以外の流産リスク因子も考慮する必要がある。西洋医学では、抗リン脂質抗体症候群などの凝固異常に対して抗凝固療法が行われることがある。

本症例では、中医学的な体質改善を目的として、補腎・活血を基本方針とし、患者個々の体質に合わせて処方を選択した。特に、ストレスを受けやすい体質には、血虚や肝鬱がベースにあることが多く、補血や疏肝の処方を加えることが重要である。

結論

本症例は、漢方薬を用いた体質改善により、反復流産を経験していた患者が妊娠・出産に至った一例である。西洋医学と東洋医学の両側面からのアプローチが、不妊治療において有効である可能性を示唆する。

今後の課題

より多くの症例を蓄積し、漢方薬による不妊治療の有効性と安全性を科学的に証明していく必要がある。また、西洋医学との連携を深め、より高度な医療を提供できる体制を構築していくことが求められる。

参考文献1.データから考える不妊症・不育症治療P55,メジカルビュー社
(薬剤師、国際中医師:田之上晃)