不妊症

高プロラクチン血症

29歳 女性、1991年11月5日初診

結婚3年で妊娠せず、配偶者の生殖能力異常なし。月経は毎月あり、量は普通、暗紅色で塊がある、下腹部に痛みがあり、抑えると痛みが増す、塊が出ると痛みが減る、常に乳房が張ったように痛い、口が渇いて苦味ある。高プロラクチン血症という診断されている、卵管通水検査しても変わりなし、中薬は飲んでいない。悲観的な様子で、顔には黄褐色のシミがあり、オリモノは黄色で多くない。

舌暗紅で瘀点ある、苔薄黄、脈細弦
診断:不妊症(高プロラクチン血症)
弁証:肝鬱血瘀化熱

結婚して長く不妊で、肝気の流れが悪くなり、血瘀が胞宮への気の流れを止めて、衝・任脈も機能せず、受精できない。月経時の腹痛、塊がでると痛みが和らぐ、口の渇き苦味、顔の黄褐色のシミ、黄色いオリモノなどは肝鬱血瘀が熱を持ったことによる症状。

治法:活血祛瘀、疏肝清熱。血府逐瘀湯加減。

処方:赤芍12g 当帰12g 牡丹皮9g 山梔子9g 桃仁12g 川芎9g 玉金12g 延胡索12g 紅花12g 生蒲黄12g 五霊脂12g 小ウイ香9g 生地黄15g。10剤、1日1剤水で煎じる。
2診目(11月15日)上の処方で不適感はなかったので、3か月継続。
3診目(1992年2月25日)近い月経時下腹部の痛み減り、血の塊も減少、口の苦味渇きは良くなっている、乳房の張りはまだあり、舌脈変わらず。上の方から山梔子をとり、北柴胡9gを加え3か月継続。
4診目(5月28日)月経きても腹痛は感じなくなってきた、経血の色は紅、他の症状も減ってきた。舌暗紅色、瘀点なくなり、脈細弦。開鬱種玉湯加味に変更。

処方:当帰12g 白芍15g 茯苓12g 牡丹皮9g 香附子12g 白朮12g 丹参15g 月季花12g 鶏血藤12g 山茱萸12g ト絲子15g。1日1剤水で煎じる。3か月継続。

5診目(9月10日)45日たっても月経が来てない、妊娠を確認。

考察:高プロラクチン血症が不妊の原因の患者。結婚して長く不妊で、肝気の流れが悪くなり、血瘀が胞宮への気の流れを止めて、衝・任脈も機能せず、受精できない。張景岳《婦人規・子嗣類》より、「情緒が良くなければ衝任脈は満たされない、衝任脈が満たされなければ妊娠できない」七情が乱れていれば不妊なるという機序である。

初診で肝鬱血瘀化熱証であり、血府逐瘀湯加減で治療する。方中の玉金・延胡索は疏肝解鬱、赤芍・牡丹皮・山梔子・生地黄は清瀉肝熱、当帰・桃仁・川芎・紅花・生蒲黄・五霊脂・小ウイ香は活血化瘀。方全体で活血祛瘀、疏肝清熱となる。

3診目熱の勢いは減り、乳房の張りがあるので、山梔子を除き柴胡を加えた。

4診目熱は除かれているのでは鬱を解くため、開鬱種玉湯加味で治療する。方中の当帰・白芍・丹参・鶏血藤は養血柔肝、香附子・月季花は疏肝解鬱、茯苓・白朮・は益気健脾、牡丹皮は清肝涼血、山茱萸・ト絲子は補益腎精。方全体で疏肝養血、補腎調経となる。

病は2つの段階に分けて治療すべきである。半年主に活血化瘀して、瘀をとり血の流れをよくする。瘀滞の改善後に開鬱種玉湯加補腎養血薬を3か月飲んで妊孕力を取り戻した。高プロラクチン血症による不妊の患者であり、活血祛瘀、疏肝解鬱、補腎養血薬はプロラクチンを低下させる内分泌調整作用があるように考えられる。

私案)高プロラクチン血症は西洋医学的にはカバサールなどの高プロラクチン血症改善薬で治療しますが、それで妊娠できない方もいらっしゃいます。中医理論で原因を解決してカラダを整えていく(この例は10ヶ月)ことで妊娠できる状態になります。

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多嚢胞性卵巣症候群PCOS

29歳 女性、1985年6月15日初診

結婚6年で妊娠せず、配偶者の生殖能力異常なし。17歳の初潮以来生理不順、3~6ヶ月おきで、量少なく暗紅色、小さい塊もある。下腹部の痛み、オリモノ量多く、幼いころから体はむくんでいる。今までに、排卵誘発剤で治療していたが効果なく、卵巣楔状切除術もしたが、生理は不規則で未だ妊娠せず。

色白で肥っている、多毛、情緒憂鬱、胸悶乳腺の張り、口内はねばねばする。舌胖暗、苔貳、脈細滑。

診断:不妊症(多嚢胞性卵巣症候群)
弁証:痰阻血瘀
治法:化痰除湿、行気活血。蒼附導痰湯加減。

処方:蒼朮9g、香附子12g、胆南星12g、茯苓12g、陳皮9g、川芎9g、丹参12g、烏薬9g、炒白朮12g、紅花12g、月季花12g、益母草15g。1日1剤を水で煎じる。3か月服用。
2診目(9月18日)服薬後1回生理が来た、生理の色は少し紅くなり、量も増えた、胸悶は減り、他の症状は変わりなし。上方から紅花を去り、仙茅12g、淫羊藿12gを加え、1日1剤、3か月服用。3診目(12月30日)生理は1回、量少し多くなり、オリモノ減少、舌脈かわりなし。上方に巴戟天12g加え、半年服用。
4診目(1986年6月28日)生理2~3か月に1回あり、色は紅い、量も増え、乳腺の張りが減少。上方を継続。
5診目(10月5日)すでに妊娠2か月だった。

考察:多嚢胞性卵巣症候群は様々な原因からなり、排卵障害、月経失調、不妊、肥満、多毛など臨床症状も様々です。

(女科切要)では「色白で肥満、月経がない、これは痰湿が脂の膜で塞ぐことが原因だ」。

肥満体型は痰湿のため、子宮も塞がれ、精を取り込めず妊娠できない、または痰が気を阻害し、気滞血瘀、痰瘀互結から気を巡らせることができず不妊になる。だから化痰燥湿法で治療する、蒼附導痰湯を加減する。
方の蒼朮・白朮・茯苓は燥湿健脾、香附子・烏薬・陳皮は理気行滞、胆南星は化痰、川芎・丹参・紅花・月季花・益母草は活血調経。
この方で化痰除湿、行気活血する。長引く痰には瘀が伴う、痰湿は温めないとなくならない、腎は生殖を主る。痰は陰邪で人の陽気を傷つける、だから2診目に化痰燥湿、活血調経の方に腎陽を補う薬を加えた、そして痰湿をなくし、瘀血をとり、陽気を生み、妊娠できた。

私案)多嚢胞性卵巣症候群は西洋医学では、クロミフェン+hCG療法が第一選択となり、無効例にはクロミフェン+プレドニゾロン併用、高プロラクチン血症にはクロミフェン+ドパミン作動薬併用などを行います。クロミフェン療法などが無効の場合にはゴナドトロピン療法を行います。また、インスリン抵抗性を示す症例やクロミフェン無効例にメトフォルミン、ビオグリダゾンなどインスリン抵抗性改善薬を使用することもあります。

西洋医学で成果が出ない場合、中医学では違ったアプローチを行います。この例では、原因が痰湿(水の滞り)や瘀血、腎虚、それを改善する漢方薬を1年2か月使用して妊娠できるカラダになっています。

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男性不妊

乏精子症

30歳 男性、2000年3月10日初診

配偶者の生殖能力は正常だが、2年半たっても妊娠しない。病院で検査をしたら乏精子症と診断された。
体検:左側精索静脈瘤グレード3、左側の睾丸は品質は可で、見た目の異常もない。
精液検査:精子密度12×10⁹/ℓ、その他項目は正常。FSHは正常値。
患者はたまに左の睾丸が張って落ちるような感じがする、運動すると重くなる。

舌質暗、舌返に瘀点、脈沈細弱
診断:男性不妊症(乏精子症)
弁証:腎虚兼瘀
治法:補腎固精、活血通絡。五子衍宗丸合桃紅四物湯加減。

処方:ト絲子・・黄耆各30g、枸杞子・車前子(布で包む)・熟地黄各20g、覆盆子・五味子・当帰・赤芍・桃仁・淫羊霍各15g、鹿角膠(溶く)10g、紅花12g、路路通25g、水蛭(研いで溶く)5g。落花生、クルミなどを多めに食べるようにして、香辛料で味付けしたセロリを禁じた。患者には必ず良くなると励ました。

以上の方剤を90日近く飲んで精液検査をした:精子密度48×10⁹/ℓ、。引き続き、この処方を2日に1剤の量で継続して40日ぐらい服用して、妻が妊娠に気づいた。2001年5月健康な男の子を無事出産した。

考察:今回の乏精子症では腎虚兼瘀が原因で、腎精不足のため精子が少なくなっていた。補腎固精、活血通絡の治療方針によって治すことができる。

私案)不妊症の原因は男女半々といわれています。乏無力症は男性不妊の一つである。病院では、経験的にビタミン剤や漢方薬を使用したり、人工授精・体外受精・顕微授精が適応となる。精索静脈瘤がある場合は手術療法も検討されます。それで効果が出ない場合は、病院では扱えない生薬(鹿角・淫羊霍など)を上手に使用すると今回の例のように妊娠できます。

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精子無力症

32歳 男性、1999年5月10日初診

配偶者の生殖能力は正常だが、3年たっても妊娠しない。精液検査:精子生存率42%、高速運動精子3%、通常精子運動率15%、pH7.5、液化時間30分、精子密度49×10⁹/ℓ、奇形率15%、白血球数2~3個/HP。FSH、LH、PRL、テストステロンは正常値。

体検:生殖器発育正常、精索静脈異常なし

体つきは痩せていて、疲れやすく、冷えに弱く、腰は時にだるい痛みがある、舌淡、苔薄白、脈沈細弱。

診断:男性不妊症(精子無力症)
弁証:腎陽虚
治法:温腎助陽。右帰丸加減
処方:ト絲子・熟地黄・黄耆各20g、枸杞子・鎖陽各15g、鹿角膠(沖服)、仙芽各10g、淫羊霍・当帰12g、製附子6g。1日1剤を水で煎じて朝晩に分けて服用。クルミ、タナうなぎなどを多めに食べるように指導した。

20日後に精液検査をした:精子生存率53%、高速運動精子15%、通常精子運動率20%。この処方を50日ぐらい服用して、配偶者が妊娠し、女の子を出産した。

考察:この精子無力証では腎陽虚が原因で、陽が生まれないため、陰ができず、精子が弱くなっていた。温腎助陽によって治すことができた。

私案)不妊症の原因は男女半々といわれています。精子無力症は男性不妊の一つである。西洋医学では確立された治療法はないが、経験的にビタミン剤や補中益気湯、八味地黄丸などの漢方が使用される。補中益気湯、八味地黄丸などに使用される生薬が植物性の穏やかな作用のものなので効果がでない場合が多い。それで効果が出ない場合は、鹿角・鎖陽・淫羊霍などの効果が高い生薬を使用するとこのように良い結果がでます。

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無排卵周期症

31歳 女性 1985年8月9日初診 結婚して5年たつが妊娠していない。パートナーは精液検査異常なし。卵管通水検査は異常なし。基礎体温は約1年間1層のままである。子宮内膜組織検査でも排卵後の内膜変化が確認できない。病院で排卵促進の治療を1年続けた。希薄な水のようなおりもので量が多い。下腹部に冷えを感じる。月経周期は7日/40~50日、量は普通。舌は淡く、むくんでおり歯型がついている。脈沈細で無力。婦人科の検査では異常なし。

中医診断:不妊症、白帯病、月経後期

弁証:肝腎不足 治法:補腎止帯

処方:鹿角霜10g、女テイ子20g、沙苑子15g、党参15g、当帰10g、白芍10g、黄檗10g、タクシャ10g、竜骨・ボレイ各15g。水で煎じる。服用を20日後。おりもの量や下腹部の冷え、腰のだるさが明らかに減少。基礎体温はまだ1層のままで、舌・脈変わりなし。温補肝腎の処方を少し変更した。

処方:鹿角霜10g、女テイ子25g、トシシ30g、熟地黄10g、川芎10g、山茱萸10g、党参15g、当帰10g、白芍10g、紫カ車10g、丹参30g。10剤。9月13日に、40日ぶりに月経がきた。まだ下腹部の冷え、腰のだるさがあったので、加減した処方を20剤続けたら、基礎体温が2層になった。

11月10日に受診。57日目で高温期が30日、少し悪心あり、尿検査で妊娠反応陽性。

考察)腎は先天の本とは、精を蔵するためであり、生殖機能を司り、腎の天キが成熟し衝任脈が通じることで胞宮が生理機能をもつ。そのため、無排卵性不妊症の治療は、腎を元気にすることが重要だ。温補腎陽、滋補腎陰をすることで排卵を促進させる。紫カ車、山茱萸、鹿角霜、センレンピが補腎での頻用薬である。鹿角霜は補腎陽するだけでなく、精血を養い、温通作用もある。陰陽互根、陰中求陽理論に基づく、補腎陽薬は補腎陰薬と併用することである。女貞子、カンレン草、トシシ、沙苑子などを加減して用いると良い。

※私案)無排卵周期症では、月経があるが排卵せず、月経周期も不順です。51日以上の希発月経の30%、19日以内の頻発月経の60%が無排卵とされています。原因は、視床下部・下垂体などの中枢性、卵巣性、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症などがあります。中枢性では、クロミフェン療法、ゴナドトロピン療法、卵巣性ではカウフマン療法、高プロラクチン血症ではドパミン作動薬を投与していきます。

中医治療では、月経周期を理想の28日に近づけることが目標になります。そのために五臓の中で1番重要な「腎」を元気にする生薬を症状に合わせて組み合わせていくことで妊娠を目指します。

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黄体機能不全

28歳 女性 2005年10月2日初診 子供を希望して5年妊娠していない。いくつかの病院で検査や治療をしてきた。基礎体温は2層になるが、高温期が9日ぐらいと短いのだけが検査の異常値。9月19日が最後の生理で、月経周期は7~8日/27日、量は少ない、淡暗色で質は希薄。足の踵が痛いときがあり、膝腰が重だるい、夜排尿で2~3回起きる。舌淡、脈沈細。妊娠・出産経験なし。

処方:鹿角霜15g、紫カ車30g、菟絲子15g、続断15g、白朮10g、ブクリョウ10g、当帰6g、川芎8g、白芍10g、杜仲10g、太子参15g、ガイヨウ10g。水で煎じて、服用を7日分。それから月経周期ごとに診察をし上記処方に生薬を加減して、4ヶ月後、2006年3月に生理が止まり、検査で妊娠を確認した。

考察)子宝を授かるには生理を整えることが第一、「調経種子」学説は不妊症の中医学治療の特色である。この理論の起源は<内経>で「生理があることで、子を授かる。」による。近年、「生理を整えることで排卵を促す」「生理を整えることで妊娠を助ける」という方薬の研究がされ、成果を上げている。「調経種子」学説を、排卵障害性不妊や黄体機能不全性不妊に臨床で生かすことで、肝・腎を養い生理を整える治療法で好成績を上げている。

※私案)不妊症の原因に黄体機能不全があると考えられています。病院ではクロミフェンなどを使った排卵誘発剤で治療しま注射薬のゴナドトロピン療法を用います。 中医治療では、補肝腎を主にして生理の状態を整える漢方薬を適切に組み合せることで排卵障害や黄体機能不全を改善し妊娠できる状態にします。妊娠する前に、生理を整えることが大切です。

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排卵障害

32歳 女性 2005年7月8日初診

結婚して12年妊娠してない。初潮は16歳、月経周期は2~3日/1~6ヶ月、量は少ない、暗色で質は希薄。生理痛はなし、いつも腰が重だるい、下腹部は冷たく、手足は冷たい。受診時4か月生理が来てない。

他の病院での診断:子宮発育不全、排卵障害、原発性不妊
望診:舌紅、苔薄白、脈沈弦細
婦人科検査:子宮正常の3分の2程度の小ささ、活動は可、乳房発育が少し良くない
診断:無月経、原発性不妊(排卵障害)
弁証:腎気不足、衝任虚、胞宮失煦、妊娠できるだけの精がない
治法:補腎暖胞、調節衝任、兼養血行血・疏肝解鬱

処方:紫石英(先煎)50g、鹿角霜(先煎)30g、巴戟天30g、淫羊藿15g、仙ホウ15g、菟絲子15g、枸杞子15g、当帰15g、白芍20g、川芎15g、川貝母10g。水で煎じて、朝昼晩の3回に分けて服用。上記処方14剤服用後粉にしてを5gずつ1日3回服用。

12月15日受診:服用1ヶ月後、生理が来た、量は少し多くなった。それ以降月経が来るたび量が多くなっていった。生理最終日から50日ぐらいして、むかむか、食欲減退、嘔吐などが始まった。脈滑。尿検査で妊娠反応陽性。妊娠が分かり投薬を中止した。

考察)<内経>で「女子は7歳毎に腎気が成長する。14歳で生殖能力が備わり、月経が始まり妊娠できるようになる。」腎気があれば月経の調子ががよく妊娠できる。腎虚であると月経が乱れ妊娠が難しくなる。<女科医案>で「子供をつくるには、男の精の充実と女の生理が整えっていなければならない。この例では月経が数か月に1回、腰のだるさ腹の冷えは腎気の衰えと衝・任脈の低下が原因である。紫石英、鹿角霜は腎陽を高めて督脈・胞宮を暖める主薬である;巴戟天、淫羊藿、仙ホウは腎陽を補い、衝任脈に栄養を与える;菟絲子、枸杞子は肝・腎を補う;当帰、白芍は養血柔肝;川芎は行気活血。長く不妊でいると、切実な思いから肝気鬱結が必ずある、どの不妊タイプでも貝母のような疏肝解鬱の生薬を用いて治療する。それぞれの生薬が相互に腎気を旺盛にし、衝・任脈を通調する。

※私案)不妊症の原因の20%が排卵障害であると考えられています。病院ではクロミフェンなどを使った排卵誘発剤で治療します。3~6か月で妊娠しない場合は、無効のため他剤併用やゴナドトロピン療法に変更します。

中医治療では、補腎、活血、疏肝などの漢方を適切に組み合せることで排卵障害を改善し妊娠できる状態にします。

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免疫性不妊

28歳 女性 1999年5月10日初診

結婚して2年以上たつが妊娠しない、体は健康で、精液検査も異常なし。患者は初潮は14歳、いつも生理周期は5~6/28~32日で正常、量もふつうで色は暗紅、塊がある、たまに生理痛がある、舌質紅、苔黄膩、脈滑数。婦人科の検査異常なし。超音波検査でも子宮の明らかな異常はなし。基礎体温は2相性。卵管通過性検査では両卵管とも通過性異常なし。性ホルモン6項目異常なし。抗精子抗体陽性。

診断:原発性不妊症(免疫性不妊)
弁証:湿熱瘀阻
処方:穿心蓮15g、山薬15g、黄柏10g、蒼朮10g、薏苡仁20g、赤芍10g、丹参10g、桃仁10g、三七末(沖服)1g、茯苓12g、甘草5g。1日1剤を水で煎じて服用。

半月服用し、コンドームで避妊してもらう。1か月治療後、抗精子抗体の検査は陰性。その月の排卵期には避妊をやめてタイミングをとってもらった。1か月後、尿検査で妊娠反応陽性、超音波で胎嚢を確認した。それからは房事を控えてもらった。

処方:黄柏10g、黄ゴン10g、白芍10g、続断10g、生地黄10g、甘草5g、白朮10g、菟シ子15g、山薬15g。妊娠3ヶ月まで流産予防で上記処方続けた。

考察)現代医学の病名である「免疫性不妊」は、伝統中医カルテの「不孕症」や「月経不調」等の範疇に入る。ゼンフイノン教授の考えは以下である。

免疫性不妊の発症は主に湿熱瘀阻によって起こる。。月経時、産後、術後など胞脈が空虚になったときに、湿熱が侵入して、余っている血と結合して、衝任脈・胞宮を塞いで妊娠できなくなっている

※私案)免疫性不妊は不妊症の15%程度である原因不明不妊に含まれることもあるぐらい頻度的には低い不妊原因です。抗精子抗体ができている場合は体外受精が必要になってきます。中医治療では、生命を維持する為の機能のバランスが乱れることで過剰な免疫が働くと考えるので、バランスを整える漢方薬で妊娠できる状態にもってきます。この例では清熱利湿活血化瘀の処方で自然妊娠してから、安胎作用がある補腎・清熱の生薬を組み合わせて流産防止を行った。

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早期卵巣不全

33歳 女性 2002年10月24日初診

ここ2年生理周期が早くなったり遅れたり不規則になっており、胸が苦しく乳房の張り、夜間手足のほてり、頭痛不眠、腰がダルい、オリモノが少ないなどある。結婚して2年妊娠ない。検査:E2 31pg/mℓ、LH 74.2mIU/mℓ、FSH 63.8mIU/mℓ。診察時は生理は3か月以上止まっていて、妊娠検査反応(-)。舌紅、苔薄、脈細弦。

西医の診断:早期卵巣不全
弁証:肝鬱腎虚、陰血不足
治法:疏肝滋腎、養血活血

処方:柴胡9g、香附子12g、生麦芽30g、熟地黄12g、菟絲子30g、葛根30g、佩蘭10g、鶏血藤30g、益母草30g、牛膝30g、当帰15g、川芎20g。4剤。

3剤服用後、生理がきて以前より量が少し増え、色紅く、胸のつかえや乳房の張りは減り、腰のだるさも減った。前回の処方に似せて滋腎の生薬を加える。

処方:熟地黄12g、菟シ子30g、枸杞子12g、紫河車6g、淫羊藿15g、続断15g、葛根30g、香附子12g、玉金10g、当帰15g、川芎9g、牛膝15g。

この処方を2か月続けて、生理がまた来た、量はさらに増え、他の症状も軽減した。血液検査でLH及びFSHも正常化した。2003年2月19日超音波検査で妊娠確認。

考察)本症例は子供を望んでいるが、恵まれず、肝気のふさがりが心まで及び、精神のバランスが崩れることで、胸の苦しみ乳房の張り、気がふさいで面白くない状態になっていた。

肝鬱が長く続き陰血が不足し熱が発生し五心煩熱・頭痛・不眠が起こった。長引く病は腎を必ず傷める、経血は腎水からできているため、腎水が不足すると経血が不足する、そのため徐々に力なく疲れ、腰のだるさを伴う閉経不妊になっていた。最初、疏肝滋腎、養血活血法を用いた。柴胡、香附子、生麦芽は疏肝理気、熟地黄、菟絲子は滋腎養陰、佩蘭、鶏血藤、益母草、牛膝、当帰、川芎は養血活血。次の診察時には肝鬱症状が減ったので、枸杞子、紫河車、淫羊藿などの滋腎培本の生薬を加えた。このような患者には滋腎をしながら葛根を一味加える、理由は現代薬理でエストロゲン作用があると証明されているためである。処方全体で滋水涵木、養血活血の作用をする、腎水が増えれば肝木は養われる、肝気の働きが円滑になれば鬱悶が除かれる、血海が溢れてきて生理が正常にくるようになる、そして妊娠できるようになる。

※私案)早発卵巣不全は、40歳未満で自然閉経が起きた早発閉経と、卵巣に卵胞が存在するにもかかわらず40歳未満でゴナドトロピンに抵抗性を示す無月経の両者を含みます。一般に、1~2週間隔の2回の採決でFSHが2度とも40mIU/mℓ以上の場合に診断される。病院では卵胞ホルモンと黄体ホルモンを周期的に使うカウフマン療法を行います。

中医治療では、腎や血を養う生薬や血の流れを良くする生薬を体質に対して組み合わせることで生理を正常に戻し妊娠できる状態にします。

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卵管閉塞

30歳 女性 1997年4月16日初診

結婚して5年、最初2年で2回人工流産術を受けた。その後3年近く妊娠しない。夫は検査正常。患者14歳で初潮迎え、月経周期はだいたい規則的、最近は4月8日に生理があった。量は普通、暗色で塊がある、生理前に頭痛、両乳房の張る痛み、イライラなどを感じる。舌質淡、舌辺に瘀点、苔薄白、脈弦。

1997年3月16日に婦人科で卵管造影術の結果:両卵管閉塞

弁証:肝鬱気滞血瘀、胞脈阻滞
治法:疏肝理気、活血通絡。自擬管通煎を用いる
処方:柴胡・王不留行・路路通・桂枝・百芥子各15g、赤芍・キ殻・地竜各10g、没薬・水蛭各6g、卷柏・生黄耆各30g、蜈蚣2条。15剤、2日で1剤水で煎じる。

5月21日受診:服用後、乳房の張る痛みは減り、生理前の頭痛も減り、情緒も安定してきた。5月6日に生理が来て正常だった。上方を10剤継続して服用。年末に妊娠2か月がわかった。

※私案)卵管閉塞・狭窄による不妊の病院での治療は、卵管通気・通水療法やバルーンカテーテルによる経膣的卵管疎通術などの非観血的治療法や卵管周囲癒着剥離術、卵管開口術、卵管端々吻合術など腹腔鏡下で行う観血的治療法があります。

中医治療では、中医学的な原因を分析して解決する漢方薬を服用してもらうことで卵管の攣縮によっておこる機能的な閉塞を改善し妊娠できる状態にします。

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子宮内膜症

31歳 女性、2004年5月5日初診

5年の生理痛、結婚して2年余りしても妊娠せず、配偶者の生殖能力異常なし、夫婦生活も正常にある。14歳の初潮以来、27~30日に4~5日あり、量普通。
5年前から生理前に、下腹部や肛門が張って垂れ下がるような感じが始まった、市販薬の痛みどめを飲むと良くなっていた。耐えられたので病院にはかかっていなかった。
2年前より症状が重くなり、生理前の2~3日と初日から2日目まで下腹部が張って刺すような痛みや絞るようような痛み、肛門の垂れ下がるような痛みがあり、生理初日は耐えられない痛みがあり、吐気や嘔吐もよく伴い、ゲップもよく出て、手足は冷え、市販薬を使用しても改善されなくなった。市販薬をたくさん使うようになったので病院にかかった。ここ2年ぐらい生理3から5日は、暗紫色で血塊があり、塊がでると痛みが和らぐ。病院では「子宮内膜症」として6ヶ月ピルを使った偽妊娠療法をした。この方法では妊娠できないと思って、中医薬の治療を求めてきた。

舌暗瘀斑あり、苔白、脈沈渋。

診断:不妊症(子宮内膜症)
弁証:寒凝血瘀証。生理の時の下腹部の刺すような、絞るような痛み、吐気・嘔吐、手足の冷えは寒邪が胞宮にとどまっているため、「通じざるは痛みをうむ」、胞宮が冷えて妊娠できなくなっている
治法:温経散寒、祛瘀止痛。温経湯合少腹遂瘀湯加減。

処方:党参15g 当帰15g 川芎15g 肉桂10g 乾姜10g 乳香15g 没薬15g 白芍30g 炙甘草10g 延胡索15g 生蒲黄(別包)15g 五霊脂15g。1日1剤を水で煎じて、次の月経まで服用。

2診目(6月5日)月経4日目で何も起こらず、生理前の痛みも減った、市販薬の痛みどめも使わずにすんだ。

上方に穿山甲15gを加え、3か月服用。服用中はコンドームで厳格に避妊をさせた。

3診目(9月8日)月経周期は正常に2回あり(30日前後)、量も少し多くなり、色は紅くなってきて、血塊も減少、生理痛も明らかに良くなった。上方より生蒲黄、五霊脂を除いて、淫羊霍15g、枸杞子15g加る。2か月服用(服用期間中は避妊)して、生理がキレイになった後卵管造影術をして、通りがよければ薬をやめて妊娠できる。

4診目(12月15日)キレイな生理が連続して2回あった後卵管造影をした、いづれも通りはよく、薬を止めて妊娠できるか試すように告げた。

2006年5月18日来て、4か月前に男の子を無事生んだとのことだった。

考察:子宮内膜症は子宮以外に内膜ができることである。生理が卵管から逆流することによって起こる、よく見られる症状は、下腹部痛、生理痛、性交痛、不妊など、不妊率は効率で40%になる。「寒は収引し、凝滞する」「通じなければ痛みがでる」これが中医の疼痛に対しての基本点考えである。

患者は生理前または当日に耐えられない痛みがあり、吐気嘔吐を伴い、ゲップがよくでて、手足の冷えなどは、寒邪が胞宮への衝・任脈を阻害したためである。《張景岳・婦人規》より、「生理時の腹痛には虚実がある。実は寒や血滞・・・。実の痛みは生理前が痛く、生理が来ると自然と痛みが減ってくる」

初診の方剤の肉桂・乾姜は温経散寒、当帰・川芎・乳香・没薬・延胡索・生蒲黄・五霊脂は祛瘀止痛、党参は益気行血、白芍・炙甘草は緩急止痛。方全体で温経散寒、祛瘀止痛の効果となる。3診目は失笑散を除いて、腎を補い陽を温め妊娠を助ける淫羊霍・枸杞子を加えた。
この医案は2つの特徴がある:一つは、生理痛が明らかな時は、温経散寒、通絡止痛によって治る。2つは、生理痛が和らいだ後、妊娠力をつける補腎温陽助孕の生薬を用いる。西洋医学の視点で、子宮内膜症は腹腔内に粘質で連なった結節ができている、そのため活血通絡・軟堅散結の穿山甲を方剤中に用いる。

私案)穿山甲は日本では使えない生薬のため効能が近い水蛭などの代用で良いと思います。

子宮内膜症による不妊であっても中医学理論で体を整えていけば(これでは7か月)妊娠する力をつけることができています。

※国家級名老中医不孕不育症験案良方(中国語) (国家級名老中医専科専病叢書)の日本語訳と私案です。