移植3回失敗から漢方併用の移植で妊娠 33歳
漢方相談事例:32歳女性、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による不妊症に対する漢方治療
患者背景
- 年齢:32歳
- 不妊期間:5年6ヶ月
- 既往歴:1人目不妊
- 医学的診断:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 治療歴:顕微授精による凍結胚盤胞移植3回(陽性反応は得られるも、胎嚢確認に至らず)
来局時の症状と漢方診断
- 冷え、夜間頻尿、右下肢神経痛、PCOS、良好胚盤胞移植後の妊娠不成立:腎虚を疑う
- 生理前頭痛、経血塊、周期性生理痛、PCOS、舌診所見(舌辺暗紅、舌下静脈怒張):瘀血を疑う
- 不眠、あくび、ため息、舌診所見(舌辺暗紅):肝鬱体質を疑う
治療方針
- 目的: 凍結胚盤胞移植の成功率向上と、次回採卵における卵子の質改善
- 処方: 芎帰調血飲去白朮・茯苓・大棗加丹参・白芍・熟地黄・桂皮の煎じ薬と牡蠣肉製品
- 効能: 疏肝、補腎、活血
治療経過と効果
- 1-2ヶ月目: 神経痛、睡眠の質改善
- 3ヶ月目: 凍結胚盤胞移植後、妊娠反応陽性。生薬の変更(烏薬→蒲公英)
- 4ヶ月目: 胎嚢確認。流産予防処方に切り替え
- その後: 順調な経過で出産
考察
患者様は、良好な胚盤胞を複数回移植しているにも関わらず、生化学的妊娠を繰り返していました。この原因として、胚の染色体異常に加え、母体側の要因(子宮内膜、凝固異常、免疫異常など)が考えられます。
本ケースでは、漢方薬による治療を開始したところ、1回の移植で妊娠に至りました。これは、漢方薬が化学流産に対して有効であった可能性を示唆します。処方された芎帰調血飲は、補腎、活血、理気、健脾の作用があり、患者様の体質に合わせて生薬を加減することで、より効果的な治療が実現できたと考えられます。
まとめ
多嚢胞性卵巣症候群を合併する不妊症に対して、漢方治療は有効な選択肢の一つと考えられます。本症例では、漢方薬が子宮内膜の環境改善や血流改善に寄与し、妊娠成立に繋がった可能性が示唆されました。
参考:生化学的妊娠と不育症.臨床婦人科産科2017.No.9:800-804
(薬剤師、国際中医師:田之上晃)